国際電話1≪十月二十二日≫ ―壱―この部屋は、朝になっても日が差し込まず、少し陰気な部屋だ。 同室の男はいつも10時頃起き出して、部屋を抜けていく。 夜、俺が部屋に戻ってくると、奴はもうベッドの中で眠っているので、 会話が成立しないのだ。 どこの国の誰なのか、全く分からない。 聞いて見ようにも、目が覚めるといないし、部屋に戻るともう眠ってい るのだから・・・・どうしようもない。 この部屋は俺にとって、ただ眠るだけの部屋。 それ以外は、政雄たちの部屋で過ごすことがほとんどだ。 もちろん大切な荷物は、政雄たちの部屋へ置いてもらっている。 ギリシャ観光局に顔を出したところで、若狭君に会いしばらく立ち話を した後、電報・電話局に立ち寄った。 今日は日本の田舎にコレクト・コールをして見ることにしたのだ。 時差が七時間ほどで、今アテネが午前十時だから、日本では今夕方の五 時ころのはず。 まず、カウンターに赴き、中に居る係りの人に、コレクト・コールをし たい旨を伝える。 そして、渡された用紙に、相手と自分の名前及び電話番号を書き込む。 書き込んだ用紙を係りに人に手渡して、呼ばれるまで待機するのだ。 呼ばれたのは以外に早かった。 30分ほどでつながったらしく、係りの人が俺の名前を呼んだ。 係りの人「ボックス、NO1に入ってください!」 俺 「NO1って・・・・あのBOX・・なの?」 係りの人がうなずく。 指示されたBOXの中に入ると、照明が点り明るくなった。 受話器をとる。 俺 「Hello!Hello!」 何度かコールすると、英語で何やら話しかけてくる。 俺 「Hello!Hello !」 相手 「?????????」 英語で答えてくる。 何を聞いてきているのか、まるで分からない。 俺 「Tokyo,Please!」 相手 「Just moment!」 俺 「OK!」 しばらく待機していると、なんと懐かしい日本女性の優しい声が聞 こえてきたではないか。 日本語での会話が可能になったのだ。 日本女性に田舎の電話番号と名前を告げて、つないでもらう。 しばらくすると田舎の懐かしい両親の声が聞こえてきた。 親父 「義彦か??」 俺 「ああ!皆元気?」 親父 「皆、元気でやってるよ。お前はどうだい?」 俺 「俺も元気で居るよ。いまギリシャのアテネから 電話してるから。」 親父 「そうかい。」 ・・・・・・・・ 荷物(冬服)のこと、200ドル(≒6万円)送金の件、・・巨人軍の優勝 のことなどを話す。 母親とも話し、ほぼ終わろうとした時、突然通話が途切れてしまった。 俺 「まあ・・いいか、言いたいことは全部伝えた し・・・・」 そう思うながら、少し不満そうに電話BOXを出て、近くのソファへ腰 を下ろすと、係りに人に何やら・・・・呼び出される。 係りの人「Mr.Higashikawa!NO2BOXへもう一度入ってく ださい!」 料金の確認かと思い、BOXに入りなおし、受話器を取ると田舎につな がっていた。 どうやら局の手違いで通話が途切れてしまったようで、もう一度つなげ てくれたようだ。 つながった回線で、両親ともう一度確認の電話をして、今度こそフィニ ッシュ。 あんなに遠く離れているのに、日本から電話しているかのようにはっき りと、相手の話が聞こえてきたのには・・・・ちょっとビックリだ。 ジャンル別一覧
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